其ノ四十八 「卯月の陽 歪んだプリズム 自己責任」
「段々々 『触らぬ神』が 命とり」
今、この国には『排除』の論理がまかり通っているようだ。 そして、この国全体が集団主義・全体主義の動向に向かっているような気が してならない。 「言っても無駄」よりも「言ったら損」で、「言わなきゃ損」よりも「言わぬが得」だ と考える風潮が蔓延っている。 ということは、管理する側の思うつぼになるわけだ。 イラクで人質になった三人がまるで犯罪者のような表情で帰国した。 まるで考えられない光景である。被害者と加害者が判らなくなってしまったのは 何故だろう? いとも安易に政府高官たちの口から出る『自己責任』の単語が空虚に響い ている。あなたたちの『自己責任』はないのですか、と問うてみたい。 管理される立場の人間たちだけに科せられる『自己責任』とは一体なんだろう。 『自己責任』という、空虚ではあるが攻撃的に放たれたその言葉が、急速に、も っともらしさを帯びて、被害者であるはずの三人の心に直撃した今、その三人の 心の痛手に対しての『責任』はないのですか?小泉さん、福田さん・・・! 無責任に攻撃的な論調で駆使する『自己責任』発言に、呼応するかのような 大衆側からの同様なバッシングが許容されてゆく社会に恐ろしさを感じてしまうの は僕だけだろうか。 『危険な場所からの退避勧告』『渡航の自由の制限』『救出費用の自己負担』・・・ どれもいままでなおざりにし続けてきた政府の怠慢が起こしたまやかしの極みの ように思えてならない。 そして「お上の云う事が聞けない輩は非国民だから排除する」という悲しき戦前 の全体主義に通ずるアナクロニズムに他ならないのだ。 日本が抱えて久しい「いじめ問題」にも通じていて、マイノリティへの偏見と差別が 生んでいる『排除』の論理がそこにはある。 仲間はずれにされない為に、子供たちは同じものを見たり同じものを着たり同じも のを食べたり飲んだりする。 友達の話題からはぐれない為に目立った事を言ったり やったりしなくなる。特別に勉強が出来ることも、出来ないことも駄目で、ごくごく普通 の突出しない自分を知らず知らずに心掛けてしまうのだ。 個性に欠けた人間像、これが『排除』されない為の理想の姿であり、国が望んだ 模範であるべき姿なのかもしれない。 そうして人は何も言わなくなって、何も行動を起こさなくなるのだ。 人質になった三人がボランティアなんて余計な事をしたから日本がテロの標的になっ たなどという、すべての『責任』を彼らに押し付けようとする哀しき風潮を赦してはいけ ないと思うのだ。 イラクでは今も悲惨な戦争が続いているのに、全くその事にすら意に介さずに自分の 事だけを考えて気楽に生きている人たちに、この問題を論じる権利はないはずだ。 自分の人生をイラク国民の為に生きようとした彼らを「自国の誇り」とすべきだと、評 した、アメリカのパウエル国務長官の言葉が唯一の慰めだとしたら、何たる皮肉な事で あろうか。 「触らぬ神に祟りなし」のことわざがあるが、「触らぬ神」を演じているうちに、知らぬ間 に自分たちが抜き足ならない沼地に足を突っ込んでいるのに気付き、「後の祭り」にな らぬようにしたいものである。 沢山の問題点が明確に提示された事件だったが、その問題点を今という時の解決の 為だけの付け焼き刃的な論議ではなく、この自分たちの愛する国『日本』の将来を見 つめてどんな国を創ってゆくのかという論議を切望してやまない。 みんなが自由に意見や考えを述べられる国であって欲しいと思うのだ。 心に、僕たちの想像を越える傷を負ってしまっただろう三人の若者に一日も早く祝福 があることを心から願いながら・・・・・・・。
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